「また忘れたの?」
「なんでそんな大事なこと忘れるの…」
と学校や職場で責められたり、
「どうしてこんな簡単なことができないんだろう」
と自分でも落ち込む――忘れ物の多さに悩んでいる人の中には、実はギフテッドやギフテッド傾向のある人が少なくありません。
注意力がないわけでも、ズボラなわけでもなく、むしろ頭の中がフル稼働しているがゆえのミスということもあるのです。
この記事では、忘れ物が多い原因とその解決策を、「ギフテッドならでは」の視点から深堀りしていきます。難しい専門用語もわかりやすく解説していきますので、中学生の方でも読みやすく、かつ大人にも深く刺さる内容になっています。
1. 忘れ物の裏にあるギフテッドの特性とは?
1-1. 覚えていないわけじゃない。「忘我状態」の罠
ギフテッドの人がよく陥るのが、「忘我(ぼうが)状態」です。これは、何かに強く集中したときに、自分の存在感や時間の感覚、まわりの状況などを一時的に忘れてしまう心理状態のことです。
ギフテッドの人は、興味のあることに没頭しやすい「overexcitability(過度激動性)」という特性を持つことが多く、目の前の対象に意識が集中しすぎるあまり、持ち物や次の予定といった日常的な情報が頭から抜け落ちてしまいます。
つまり、「覚える気がない」のではなく、「脳のリソースが別のところに偏っている」のです。
1-2. 興味でしか動けない「新奇性追求性」
「新しいこと」「面白いこと」に強く反応しやすい特性を、「新奇性追求性」と呼びます。ギフテッドの多くはこの傾向があり、刺激的な情報に惹かれるぶん、ルーティンや退屈な作業がどうしても優先順位の下に落ちてしまいます。
たとえば、「提出物を明日持っていく」よりも、「今ひらめいたアイデアを書き留めたい」と感じた瞬間、前者の記憶は一気に後回しになります。そして数時間後、目が覚めたように「やばい!忘れてた!」と気づくのです。
これは意志の弱さではなく、脳の報酬系が刺激に対して過敏に反応しているために起きる自然な現象です。
1-3. 全体像から入る「演繹的思考」の弊害
ギフテッドの人は、物事を「細かい手順」からではなく、「全体像」や「意味」から考える傾向があります。これは「演繹的思考」と呼ばれ、抽象的・理論的な考え方に強みを持ちます。
ところが、この思考法は「目の前の具体的なToDo」が抜け落ちやすくなるという弱点もあります。「なぜそれをするのか」は常に考えているのに、「ペンケースをバッグに入れる」といった単純な行動は思考の網に引っかからないのです。
結果として、理屈は理解しているのに、物理的な準備や手続きに弱いというギャップが生まれます。
1-4. 「外的強化」に反応しにくい
学校で「忘れ物が多いとマイナス評価」と言われても、ギフテッドの人はあまりピンと来ないことがあります。これは、報酬や罰などの「外的強化(外からの働きかけによる行動変容)」よりも、内的な納得や動機に強く反応する性質があるためです。
たとえ「怒られるから持っていこう」と思っても、その意識は興味のある他の情報にすぐに書き換えられてしまいがちです。だからこそ、「忘れない理由」を外側に置くこと自体が難しいのです。
1-5. モデルがいなかった?「モデリング理論」から見る学習のズレ
「モデリング理論」とは、人が行動を学ぶとき、他人の行動を観察して真似ることで学習するという心理学の理論です。家庭や学校で「忘れ物をしない」大人の姿を十分に見てこなかったり、「忘れてもフォローされる」環境で育つと、「忘れ物を防ぐ行動」が自然と学ばれないことがあります。
また、ギフテッドの人は周囲から「賢いからわかってるでしょ」と思われ、意外と誰にも丁寧に「こうやって準備するんだよ」と教わっていないケースも多いのです。
つまり、忘れ物=注意力の問題ではなく、環境による学習の不均衡でもある可能性があるのです。
1-6. 自分を大事にする感覚の欠如:「セルフネグレクト」
忘れ物が多い背景には、「どうせ自分のことなんて大した問題じゃない」というような、自己軽視の感覚が潜んでいることもあります。これは「セルフネグレクト(自己放棄)」と呼ばれ、無意識に自分の必要や快適さを軽んじてしまう状態です。
ギフテッドは周囲との違いや孤独感から、自分のニーズを後回しにするクセがつきやすく、準備不足やミスを「まあ、仕方ないよね」と流してしまう傾向も。
このような心理状態では、「忘れないようにしよう」と自分に働きかけるエネルギーも不足しがちになります。
2. 忘れ物を防ぐための「仕組み」と「メタ認知能力」の育て方
2-1. 忘れ物対策に必要なのは「根性」ではなく「仕組み化」
「次こそ忘れないようにしよう」と何度決意しても、また同じミスを繰り返してしまう…。それは、意志が弱いからではなく、仕組みが整っていないからかもしれません。
ギフテッドにとって、感覚や直感に頼る場面が多いぶん、タスク管理や物の持ち物確認といった“ルーティン業務”は苦手になりがちです。そのためには、自分の脳のクセに合わせて、忘れ物を防ぐ「仕組み化」が必要です。
たとえば:
- 毎日同じ場所に物を置く(鍵・財布・提出物など)
- 出かける直前に必ず見る「持ち物リスト」を可視化
- タスクを見える場所に貼り出す(デスク・ドア・スマホ)
- 時間ごとにやることを「スケジュール化」して、脳の負荷を減らす
「自分で覚えておく」から「覚えなくていい構造」に移行することで、忘れ物の確率は大きく減らせます。
2-2. 忘れ物が起きる「脳のしくみ」を知る:メタ認知能力とは
ここで重要になるのが、「メタ認知能力」です。これは、「自分の考え方・注意の向け方・記憶のクセ」などを、一段上から観察する力を指します。
たとえば:
- 「自分は時間が迫ると慌てて確認を忘れるクセがある」
- 「興味のあることがあると、それ以外が飛ぶ傾向がある」
- 「“思い出したつもり”で実はチェックしていない」
こうしたパターンを理解し、自分の行動にフィードバックをかけることができると、「忘れ物をしそうなタイミング」に自分で気づくようになります。
ギフテッドの場合、このメタ認知能力が極端に強いか、逆に育ちにくいという両極があります。「認知の客観視」に慣れていない人は、まずは行動記録をつけるなどして、自分の傾向を「可視化」することから始めてみましょう。
2-3. 「仕組み+感情」を組み合わせた工夫
仕組みだけでは続かないこともあります。特にギフテッドの場合、感情が動かないと行動が伴わないという傾向が強いため、次のような「エモーショナルな仕掛け」を加えるのも有効です。
- お気に入りの付箋や文房具で「チェック作業」を楽しい儀式にする
- ToDo完了ごとに達成シールやスタンプを貼る(外的報酬を視覚化)
- 「うっかり」をネタにしたキャラクターを作って、自己攻撃を和らげる
「楽しい・気持ちいい・かわいい・面白い」という要素は、強化学習として働きます。感覚的な記憶に引っかかると、「忘れない仕組み」へのモチベーションも自然と上がるのです。
2-4. スマホを味方にする:記憶よりリマインダー
ギフテッドの人ほど「全部自分の頭で覚えておこう」として疲弊しがちですが、記憶力よりも外部リソースの活用
おすすめの工夫は:
- Googleカレンダーで通知を設定(時間単位で表示)
- LINEで自分宛にメモ送信(直感的な使い方ができる)
- Todoアプリで視覚的に「やること」を整理
ポイントは、「見るだけで自動的にやる気が湧く設計にする」こと。リマインダーを「警告」としてではなく、「自分を助けてくれる仲間」として位置づけることで、心理的抵抗感も減らせます。
上記のおすすめは、スマホとパソコンの両方で同期できる方法なので、デスクワークが多い人にも最適です。
2-5. 「忘れた後」の対応こそ大切
どれだけ工夫しても、忘れるときは忘れます。それを「自分はダメだ」と責めすぎると、脳は「忘れる=怖いこと」と認識して、ますますフリーズしやすくなります。
そこで意識したいのが、「セルフ・フォロー」です。
- 忘れたら「ごめん、またやっちゃった!」と軽く認める
- 「なぜ起きたか」を冷静に分析(例:睡眠不足、予定変更)
- 次に活かすための「対策メモ」を残す
こうした「忘れた後の流れ」まで一つの「仕組み」に含めることで、自分を責めすぎずにリカバリーできるようになります。
2-6. 忘れ物対策は「自分を大事にする習慣」でもある
最後にもう一度伝えたいのは、忘れ物が多い人は決して「能力が低い」「注意が足りない」わけではないということ。
むしろ、考えることが多すぎる、感覚が鋭すぎる、興味が偏って深すぎるという、ギフテッド特有の“長所”の裏返しである場合がとても多いのです。
だからこそ、忘れ物をなくす努力は「能力を正す」ためではなく、自分をもっと気持ちよく動かすための工夫として位置づけてみてください。
「仕組み化」や「メタ認知能力の育成」は、自分の脳や感覚に敬意を払いながら、味方につけていくことでもあるのです。
3. 忘れ物ぐせとどう付き合っていくか:長期的な視点と自尊感情の再構築
3-1. 忘れ物の多さは「自己肯定感」とつながっている
忘れ物が多いことに悩んでいる人の多くは、ただ「うっかりした」だけでは済ませられず、深く落ち込んでしまうことがあります。これは、忘れたこと自体よりも、「また迷惑をかけた」「信用を失った」と感じる自責の感情が強いからです。
ギフテッドの人は、「能力がある」というラベルのせいで、周囲からの期待値が常に高くなりがちです。そのぶん、「簡単なことをミスする自分」に対して強い羞恥や劣等感を抱くようになります。
この「期待と現実のギャップ」が続くと、やがて「どうせまた失敗するに違いない」と思い込み、自尊心の低下や、自己否定的な行動(セルフネグレクト)につながってしまいます。
まず大切なのは、「忘れた自分を責めるのではなく、うまく仕組み化できなかったことを客観的に見直す」視点に切り替えることです。
3-2. 自分の特性を知り、説明できるようになる
忘れ物が多いという現象の裏には、以下のような特性の複合が隠れていることがあります:
- overexcitability(過度激動性):刺激に敏感で感情・思考・感覚が活発
- 新奇性追求性:新しい刺激や情報を求める傾向が強い
- 演繹的思考:意味や構造を先にとらえ、手順を見落としやすい
- セルフネグレクト:自分の快適さやニーズを軽視してしまう傾向
これらの性質は、誰にでも当てはまるわけではなく、明らかに脳の動きや情報処理の特性が偏っていることを意味します。
だからこそ、自分の行動の背景をきちんと把握し、それを言語化できるようになることで、「ただの不注意」ではないという正当性を自分にも他者にも示せるようになります。
自己理解は、自己肯定感の土台です。
3-3. 周囲に「説明」できる言葉を持つ
「また忘れたの?」と怒られたとき、ただ謝るだけではなく、次のように伝えられると、周囲との関係も変わってきます:
「すみません、私は記憶力に偏りがあって、手順よりも意味や全体像を重視する脳の使い方をしてしまうんです。なので、今後は事前にリマインダーと持ち物確認表を使うようにして対策します」
こうした説明ができると、相手は「あ、この人はだらしないのではなく、特性に応じた工夫をしているんだ」と理解しやすくなります。
これは、単なる自己弁護ではありません。ギフテッド傾向のある人にとっては、構造的な情報処理の違いを説明することが社会的サバイバルでもあるのです。
3-4. 「忘れ物が多い自分」を否定しない練習
忘れ物をしたとき、自分を「無能」「子どもっぽい」「社会人失格」と責めてしまうのは、長年刷り込まれた“普通”という基準に対して無理に合わせようとしているサインかもしれません。
しかし、ギフテッドの特性を持つ人にとっては、その“普通”こそが合っていないことが多いのです。
まずは次のような視点で自分を再定義してみましょう:
- 「忘れっぽい」のではなく「興味が飛びやすい」
- 「準備不足」ではなく「今この瞬間に集中している」
- 「気が利かない」のではなく「全体に意識が分散している」
これはただの言い換えではなく、視点の転換です。「自分を否定せずに、特性として受け入れる」ことは、成長の出発点になります。
3-5. 忘れ物を社会とつなげて考える:モデリング不足の社会課題
前述した「モデリング理論」の観点から見ると、そもそも現代社会には「丁寧な暮らし方」や「準備を可視化する文化」が減ってきているという背景もあります。
スマホやクラウドでの情報管理が主流になったことで、「物を揃える」「リストで確認する」「声に出してチェックする」といった行動がモデルとして目に見えにくくなっているのです。
そのため、ギフテッドだけでなく、多くの子どもたちが「忘れ物をしない行動様式」を学ぶ機会を失っています。
忘れ物が多いことは、個人の失敗というよりも、社会全体でモデリング環境が崩れてきている現象でもあるのです。
3-6. 忘れ物とうまく付き合いながら、自分の「特性」を武器にする
忘れ物の多さを「欠点」と捉えるのではなく、それを補う方法を見つけ、逆に活かすことができれば、それは立派な“強み”になります。
たとえば:
- 過集中による創造性を、整理担当とのペア作業で活かす
- 思いつきのスピードを、即メモや即送信で具体化する習慣に変える
- 視覚的思考を活かして、フローチャートやアイコンで持ち物管理
「苦手をなくす」ことにフォーカスするのではなく、「苦手を前提に、どう設計すれば回避できるか」を考えるほうが、現実的でラクです。
そして、ギフテッドのような脳の個性を持った人は、社会の中でこそ力を発揮できる存在です。あなたの創造力や独自の視点は、忘れ物とは関係なく、十分に価値があるのです。
最後にまとめとして、この記事の要点を振り返ってみましょう。
4. 忘れ物を責めない社会へ:誰もが安心して自分の特性と生きられるために
4-1. 「忘れ物=怠慢」という偏見を壊す
学校でも職場でも、忘れ物をすると「だらしない」「真剣さが足りない」と見なされがちです。しかし、この記事で解説してきた通り、ギフテッドやギフテッド傾向のある人にとっては、それが「脳の処理特性に由来する行動」であることが多く、怠惰とはまったく関係ありません。
忘れ物の裏には、過集中や感覚の過敏性、抽象的思考の傾向、環境による学習機会の乏しさ、さらには自己評価の歪みなど、さまざまな要因が複雑に絡んでいます。
それを「ただの不注意」と切り捨てることは、本人を追い詰め、さらに忘れ物を悪化させるだけです。
大人も子どもも、「忘れ物を繰り返してしまう人」に対して、怒るのではなく、仕組みや工夫を一緒に考える視点が、社会全体に必要です。
4-2. 子どもにも伝えたい「忘れ物の理由」
子どもが忘れ物をしたとき、大人がしてはいけないのは「ちゃんとしてないからそうやって忘れる」「やる気がないから忘れるんだ」と返すことです。そうではなく、こう伝えてみてください:
「あなたの頭の中は、すごくたくさんのことを考えてるから、ペンを筆箱に入れるっていう小さなことが後回しになっちゃうこともあるんだね。でも、忘れてもいいって意味じゃなくて、どうしたら忘れにくくなるか、一緒に考えてみようか」
このような声かけがあるだけで、子どもは「自分が変なのではない」と安心し、工夫する気持ちを持てるようになります。
4-3. 社会のほうが変わる必要があるときもある
ギフテッドや発達特性をもつ人に「普通に合わせて」と求めるばかりでは、その人本来の才能や創造性がつぶれてしまいます。
忘れ物が多いことを「治すべき弱点」とみなすのではなく、「そういう特性を持つ人が生きやすいように、社会の側が選択肢や環境を広げていく」こともまた必要なのです。
たとえば、メモやチェックリストの活用を恥としない風土、ルールや段取りを「見える化」しておく文化、そして忘れたときに安心して「助けて」と言える空気。
そんな社会なら、忘れ物は減るだけでなく、人の心の傷も減っていくはずです。
4-4. あなたは「忘れっぽい人」じゃなく、「考えることが多い人」
最後に、この記事を読んでくれたあなたへ伝えたいことがあります。
あなたは「忘れっぽい人」ではありません。たくさんの情報を処理し、深く思考し、感情が動くポイントが人と違うだけなのです。
そしてそれは、あなたの大きな才能です。だからこそ、脳の使い方を責めるのではなく、その脳を活かす環境と仕組みを味方につけてください。
忘れ物がゼロになることがゴールではありません。忘れ物に左右されずに、自分の思考や行動を自由に発揮できる状態を目指すことが、いちばん大切なのです。
その一歩として、「自分の特性を知る」「責めずに工夫する」「社会に対して説明する」。それらが積み重なっていくことで、忘れ物は“悩み”から“設計の対象”へと変わっていくでしょう。
あなたは忘れてしまう人じゃない。考えることが多すぎるだけ。
だからこそ、考えた分だけ、自分を助けてあげてください。