【時間感覚のズレ】行動が早い&遅い——真逆に見えるギフテッド特性の仕組みを徹底解説|OEとクロスモーダル現象のシナジーと付き合い方

ギフテッドの悩み100選

「時間感覚がずれている」と感じるあなたへ

気がつけば周囲とのペースが合わない。締切までの感覚が人と違う。過去のことをまるで昨日のことのように覚えていたり、逆に今朝のことを思い出せなかったり――。

こうした「時間感覚のずれ」は、ギフテッドや発達特性をもつ人たちにとって、意外と見落とされがちな悩みのひとつです。

この記事では、ギフテッド、あるいはギフテッドかもしれないと感じている人が抱きがちなこの「時間感覚の違和感」について、

  • なぜそんな感覚が生まれるのか(原因)
  • どうすれば少しでも扱いやすくできるのか(解決策)

を解説していきます。


時間感覚の「ずれ」ってどういうこと?

まず前提として、「時間感覚がずれている」というのは、時計の読み間違いではありません。

例えば、次のような体験はありませんか?

  • 「もう5分経ったと思ったのに、まだ1分しか経っていない」
  • 「1時間以上たってる気がするけど、実際はまだ30分だった」
  • 「今週はすごく長く感じたのに、先月は一瞬で終わった」

これは「時間の体感」と「客観的な時間(時計で測れる時間)」がずれている状態です。そしてこの体感の違いは、脳の情報処理や感覚の特徴が大きく関係していることが、近年の研究でわかってきています。


なぜギフテッドは時間感覚がずれやすいのか?

1. overexcitability(過度な感受性)による体感の伸縮

ギフテッドの特性のひとつに、overexcitability(オーバーエキサイタビリティ)があります。これは「感情」「知的」「感覚」「想像」「運動」など、さまざまな領域で過敏すぎるほどに反応する性質のことです。

特に感覚的overexcitabilityをもつ人は、外界からの刺激(音、光、匂い、体の感覚など)に対して過剰に反応する傾向があるため、1分の中で感じる情報量が非常に多く、密度の濃い時間になります。

そのため、実際の時間よりも「長く感じる」ことがあります。逆に、興味に没頭してしまうと「一瞬で何時間も過ぎてしまった」ように感じることも。

2. 新奇性追求性と時間体感の変動

ギフテッドに多いもうひとつの特性が、新奇性追求性(novelty seeking)です。

これは「新しいもの」「まだ知らないこと」に対する強い欲求や好奇心を意味します。新しい刺激に触れているとき、脳はドーパミンを放出し、「もっと知りたい」「次が気になる」と前のめりになります。

この状態では、時間の感覚が鈍くなりやすく、没頭している間は時間を忘れやすくなるのです。

3. ジャネーの法則が強く働く

時間体感を説明する有名な心理学的理論に、ジャネーの法則があります。これは、「年齢を重ねるほど、1年が短く感じる」現象を説明するもので、体感される時間の長さは「記憶に残る出来事の数」に比例するという考えです。

ギフテッドは1日に感じる刺激や考え事の量が非常に多く、それが毎日記憶として濃密に積み重なります。すると、過去が妙に長く感じたり、逆に直近の出来事が圧縮されたように感じたりするわけです。

4. クロスモーダル現象による時間の混乱

クロスモーダル現象とは、視覚・聴覚・触覚など複数の感覚が同時に影響しあうことで、脳内で統合的な知覚が行われる現象です。

ギフテッドの中には、この感覚の統合が独特な人が多く、「音で時間を感じる」「映像で過去を想起する」といった非言語的な時間認知を持つ人もいます。

その結果、通常の時間の流れ(時計の進み方)と、頭の中の時間感覚が一致しないことが起こりやすくなるのです。

5. ワーキングメモリと非同期発達

ワーキングメモリとは、簡単にいうと「頭の中で情報を一時的に保管しながら、処理する能力」です。

ギフテッドはこのワーキングメモリの性能に極端なアンバランスがあることがあり、例えば抽象的な思考では高い能力を発揮する一方で、「今何時か」「どれくらい経ったか」など、時間の管理には苦手意識を持ちやすい人もいます。

また、非同期発達(asynchronous development)という概念も関係します。これは「認知」「情緒」「社会性」などの発達のスピードに差がある状態で、特定の領域だけが極端に先行・遅延している特徴です。

時間感覚のずれもこの一種で、論理的には大人びているのに、生活上の時間管理や予定感覚が幼いまま、ということがよく起こります。

メタ認知と「時間の歪み」

メタ認知とは、「自分の考え方や行動を、もうひとりの自分が客観的に見つめる能力」のことです。

ギフテッドはこのメタ認知力が非常に高い傾向にあります。これは一見すると優れた自己管理能力のように思えるかもしれませんが、実際には「今やっていることに集中できない」「常に俯瞰しすぎている」といった悩みにもつながります。

たとえば、勉強中に「これって本当に意味があるのかな?」「やり方は正しいかな?」と頭の中で検証モードに入ってしまうと、気づかぬうちに10分、20分と時間が経過していた…ということがよく起こります。

また、逆に「今これをやってる最中に、他のことを考えてはダメだ」と抑圧的に集中しようとすると、それがかえって過集中を引き起こし、時間を飛ばしたように感じることもあります。

演繹的思考による時間の「飛躍」

演繹的思考とは、「大きな前提から、小さな結論を論理的に導き出す思考法」のことです。数学的思考や哲学的推論に強い人は、これを自然に使っています。

ギフテッドの中には、この演繹的思考が非常に発達している人が多く、ひとつの出来事から複数の未来を一瞬で予測してしまうことがあります。

たとえば、ある言葉を聞いたときに、

「この発言の真意は?」
「相手の意図は?」
「この先起こりうる展開は?」

といった未来を、無意識にシミュレーションしてしまうのです。

このような「時間を飛び越えた思考」が当たり前になっている人にとっては、いまこの瞬間を感じることがむしろ難しく、時間が「つかみどころのないもの」に感じられるのです。

それによって、日常の時間管理や生活のリズムが乱れ、「ずれている」と見なされてしまうことがあります。

「時間感覚のずれ」にどう向き合えばいいのか?

ここまで紹介してきたように、ギフテッドの時間感覚のずれは「性格の問題」でも「怠け」でもありません。それは脳の働き方、感受性、思考スタイルの結果として自然に起きている現象なのです。

だからこそ、まずは「責めないこと」が第一歩です。

そのうえで、少しでも扱いやすくするための方法を紹介します。

1. 「時間を見える化」する

抽象的な時間感覚をつかみにくい場合は、視覚的に把握する工夫がとても効果的です。

  • タイマーを使って「あと何分」を数字で見えるようにする
  • アナログ時計を使って「針の動き」で時間を体感する
  • 予定を色つきの付箋やカレンダーに書いて視覚化する

「感覚」で把握するのが難しいなら、道具に任せることがポイントです。

2. 「時間の流れを記録」する

自分の時間の使い方を把握するには、「記録」が効果的です。

  • 15分単位で何をしていたかをメモする
  • 1日の振り返りを、簡単に3行だけ日記につける

自分の行動パターンや、集中が続く時間帯・中断が起きやすい時間帯などを可視化することで、「時間の使い方の癖」が見えてきます。

3. 「タスクではなくリズム」で動く

ギフテッドにとって、「この時間にこのタスクをやらなきゃ」と縛ることは、かえってストレスになります。

そこでおすすめなのが、「朝は準備系、昼は集中系、夜はリラックス系」といったように、「時間で区切る」のではなく「エネルギーの流れ」で活動を分けることです。

タスク管理ではなく、リズム設計。この発想の転換で、無理なく動ける時間感覚を取り戻せる人も少なくありません。

4. 「抽象的な感覚」を言語化してみる

時間感覚のずれに悩む人の中には、「うまく説明できないから誰にも理解してもらえない」と孤立してしまう人もいます。

でも、その「説明できない」という苦しみこそが、抽象力が高い証拠だったりします。

たとえばこんなふうに表現してみるのはどうでしょう:

  • 「この1時間は10時間分の情報が入ってきた気がする」
  • 「あの出来事は今でも毎日心の中で繰り返されてる」
  • 「この5分で、半年先のことをシミュレーションしてた」

こうした言語化ができれば、周囲との共有もしやすくなり、孤独感や誤解を減らすことにつながります。

まとめ:「時間に適応する」のではなく「時間を再定義する」

ギフテッドが感じる「時間感覚のずれ」は、決して間違いや欠陥ではありません。

それは、豊かすぎる情報処理や、飛躍的な思考クロスモーダルな感覚抽象力があるからこそ起こるものです。

周囲と同じように「時間を正しく扱えるようになろう」とするのではなく、自分にとっての「時間の感覚」とうまく付き合う方法を模索していくことが、大切なアプローチです。

あなたにとって時間とは「流れるもの」かもしれませんし、「跳ぶもの」かもしれません。どんな感覚でも、そこに正解も不正解もありません。

「このずれ」を否定せず、「どうすればうまく付き合えるか?」を考える。それだけで、日々のストレスはずっと小さくなります。

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