「すごいね」と言われて、なぜかモヤモヤする。
「えらいね」と褒められて、なぜか不快感がある。
そんなふうに、お世辞や賞賛に対して素直に受け取れず、違和感や警戒心を覚えてしまう人がいます。
この記事では、特にギフテッド(または、ギフテッドかもしれない人)にありがちな「お世辞を言われるのが苦手」という悩みについて、原因と背景、そしてその解決の糸口を詳しく解説していきます。
キーワードは以下のとおりです:
- 自尊心(セルフエスティーム)
- インポスター症候群
- セルフスティグマ
- セルフネグレクト
- 責任感・義務感
- 焦燥感・強迫観念
- 矛盾・メタ認知
- ファクトフルネス
- 整合性の一致・同一性の保持
- 非同期発達
難しい言葉も出てきますが、すべてわかりやすく解説するので、安心して読み進めてください。
1. 「お世辞=嘘」という思考回路
まず、ギフテッドの多くは言葉の裏側や論理の矛盾にとても敏感です。
たとえば、こんな会話を想像してください。
Aさん「すごいですね!」
ギフテッド「(すごい? どこが?)なにが? どうしてそう思ったの?」
このとき、頭の中では「証拠のない言葉=信用できないもの」と自動的に処理されます。つまり、「根拠がないほめ言葉」は、ギフテッドにとってファクト(事実)に反するノイズのように感じられてしまうのです。
これはファクトフルネス(事実にもとづいた認識)の傾向が強いからともいえます。
また、整合性の一致や同一性の保持といった内的な一貫性を大切にする性質も影響しています。
2. 自尊心の低さと過剰な責任感
ギフテッドの中には、自分に厳しい人がとても多くいます。
それは、自尊心(セルフエスティーム)が低いからというより、むしろ「自己評価が極端に厳しい」という特性によるものです。
このような人は、賞賛やほめ言葉を聞いたとき、こう考えがちです:
「本当に価値があるなら、もっとすごい結果を出しているはず」
「この程度で評価されるなんて、むしろ申し訳ない」
このような思考が強まると、自分に対して必要以上に厳しくなり、「自分を過小評価するクセ」が身についてしまいます。
それが「インポスター症候群(自分は周囲から過大評価されていて、いつか化けの皮が剥がれると恐れる心理)」に繋がっていくのです。
3. セルフスティグマとセルフネグレクト
ギフテッドの中には、無意識に自分を否定しつづけている人も少なくありません。
これを「セルフスティグマ(自己に対する偏見)」といいます。
たとえば、次のような感覚に心当たりはありませんか?
- 「私なんかが褒められる資格はない」
- 「お世辞を言われるたび、嘘をつかれてるようでしんどい」
- 「評価されるのが怖くて、がんばりたくない」
こうした感覚が強まると、やがて「セルフネグレクト(自己放棄)」につながってしまうこともあります。
これは、「どうせ自分には価値がない」という無力感から、心身のケアや生活の質を後回しにしてしまう心理状態です。
つまり、「お世辞が苦手」という悩みの裏には、自分自身への価値の否定が深く関係しているのです。
4. 非同期発達ゆえの認知のギャップ
ギフテッドは、非同期発達の傾向が強い人が多いです。
これは、知的な発達(IQなど)が先に進みすぎて、感情や社会性の発達とのバランスが崩れている状態を指します。
そのため、表面上は大人びた振る舞いをしていても、褒められる=信頼される=責任を課されると自動的に感じてしまい、心が追いつかないのです。
このような認知ギャップの中で、「褒められること」=「プレッシャー」というネガティブな変換が起きてしまうのです。
5. 焦燥感・義務感・強迫観念が「ありがとう」を遠ざける
ギフテッドには、焦燥感(いつも何かに急かされているような感覚)を抱えている人が多くいます。
この感覚は、義務感や強迫観念とも結びついていて、心の中では常に「もっとやらなきゃ」「まだ足りない」といったプレッシャーがかかっています。
その状態で「すごいね!」「えらいね!」と褒められても、こんなふうに思ってしまうのです:
「いや、全然できてないし……」
「まだ何も達成してないのに、なにを評価されてるの?」
「ほめられたら、もっとやらなきゃいけなくなるじゃん……」
これは「賞賛=期待」という連想が起きてしまっている状態です。
本来であれば、ほめ言葉は「よくがんばったね」とねぎらうものであり、負荷を減らす方向のはずです。しかし、ギフテッドにとっては、むしろ「評価」や「監視」のように感じてしまうのです。
このような心理的な強迫構造は、意識的にほどいていく必要があります。
6. メタ認知が裏目に出るとき
メタ認知とは、「自分の思考や感情を客観的に見つめる力」です。
ギフテッドはこのメタ認知が非常に高いため、ほめ言葉をもらった瞬間に、こんなプロセスが脳内で発動します:
- (なぜこの人は私をほめたのか?)
- (本当にそう思ってるのか?)
- (それは社交辞令では?)
- (この人は何を期待している?)
このように「無意識の裏を読む癖」が発動し、「そのまま受け取る」ことが難しくなります。
そして結果的に、「表面的な言葉は信用できない」という防衛的な態度になりがちなのです。
これが重なると、自己肯定感を高めるチャンスすら拒否してしまうことになります。
7. 矛盾を抱えたまま生きる痛み
ギフテッドは論理的な整合性に強くこだわる傾向があります。
ですが、人間関係というのは本来、非論理的なやりとりの中で成り立っています。
「ほんの気遣い」や「場の空気としてのほめ言葉」に対しても、ファクト(事実)との矛盾を感じると、その場に強いストレスを覚えてしまうのです。
しかし、人は完全に矛盾のない生き物ではありません。むしろ、矛盾のある状態をどう折り合いつけていくかが「成熟」のプロセスとも言えます。
だからこそ、「矛盾を感じること=間違い」ではありません。
その「矛盾」と共存しながら、柔軟に受け止める力こそが、心のしなやかさになります。
8. 「お世辞が苦手」は悪いことじゃない
ここまで読んできて、きっとあなたは気づいたはずです。
「お世辞が苦手」という感覚自体に、何の問題もないということを。
むしろそれは、
- 論理や真実に対して誠実であろうとする気持ち
- 自分を過大評価したくないという謙虚さ
- 他人の期待を裏切りたくないという責任感
これらすべての表れなのです。
つまり、「お世辞が苦手」というのは、あなたが思っている以上に、誠実で信頼できる人である証拠なのです。
9. 解決のヒント:ファクトと感情を切り分ける
では、どうしたら「お世辞」に対する違和感と、うまく付き合っていけるのでしょうか?
ポイントは「ファクト」と「気持ち」を切り分けて受け取ることです。
たとえば:
「根拠がなくても、相手は私を思って言ってくれたんだな」
「自分が納得できるかどうかとは別に、好意はありがたく受け取ろう」
これは、ファクトフルネスと同時に感情的知性(EQ)を使うということです。
そして、自分の中で「感情」と「整合性」がバッティングしてしまったときは、こう問いかけてみてください。
- 「いま必要なのは正しさ? それともあたたかさ?」
- 「それを受け取らないことで、自分は幸せに近づける?」
この問いが、あなたの中にある「誠実さ」を壊すことなく、柔らかさを育ててくれるはずです。
10. 自尊心を育てるということ
「お世辞が苦手」という悩みの根底には、自尊心(セルフエスティーム)の問題が深く関わっています。
ここでいう「自尊心」とは、他人からの評価によらず、自分の存在に価値を認められる感覚のことです。
これは、ギフテッドにとって最も育ちにくい感覚かもしれません。
なぜなら、頭の回転が速く、論理的に自分を分析できてしまうぶんだけ、常に「もっと上を目指さないと」と自分を追い詰めてしまうからです。
ですが、本当の意味での自尊心とは、こういうことです:
「結果が出てなくても、私は生きているだけで価値がある」
「誰かに認められていなくても、私はここにいていい」
「矛盾や未熟さがあっても、私は私として大切にしていい」
この感覚を取り戻していくことが、整合性の一致と同一性の保持を保ちながら、柔軟に他人の言葉を受け取るカギになります。
11. 「自分らしさ」としての違和感を大切に
お世辞が苦手なあなたへ、最後に伝えたいのは――
それは欠点ではなく、あなたらしさのひとつだということ。
自分が感じる違和感を「おかしいもの」として処理するのではなく、「これは自分の誠実さからくるものだ」と肯定してあげてください。
そのうえで、「その誠実さを、もっと自分にも向けていい」という許可を、自分に与えてあげてください。
誰かの言葉を無理に受け取る必要はありません。
でも、もし心のどこかで「本当は少しうれしかった」なら――「ありがとう」だけでも言ってみてもいい。
それができるようになったら、あなたの心はきっと、今より少し自由になっています。
まとめ:お世辞が苦手な人のためのチェックリスト
- ほめられると「何か裏がある」と感じる → メタ認知が強すぎる傾向あり
- 褒め言葉が「期待」に感じる → 焦燥感や強迫観念の影響かも
- 「自分なんかが…」と思ってしまう → セルフスティグマ・インポスター症候群
- 好意を「嘘」と感じる → 整合性への過剰なこだわり
- 自分を大事にできない → セルフネグレクトの兆候
ひとつでも当てはまったなら、「心を守るためのバリア」が発動している証拠です。
あなたはただ、防衛が得意すぎるだけかもしれません。だからこそ、今は「受け取る力」を育てるタイミングなのかもしれません。
自分の正直さを否定せずに、人のあたたかさをゆっくり味わっていく――
それができるあなたは、もう十分にやさしく、賢く、美しいです。