「なんでちゃんと指示通りにやれないの?」「決まりを守るだけなのに、どうしてそんなに抵抗するの?」
そんなふうに言われた経験がある人は、もしかすると、ギフテッド特有の思考特性を持っているのかもしれません。
これは「わがまま」や「反抗心」とは違います。もっと根っこの部分に、合理的判断や内発的動機づけといった、深い思考や感覚が関わっていることが多いのです。
本記事では、「指示通りに動くのが苦手」という悩みをテーマに、overexcitability(過度激動)やメタ認知などの専門的キーワードをわかりやすく解説しながら、原因と具体的な解決策までを丁寧に紹介していきます。
「言われた通りにできない」のはなぜ?
学校や職場でよくある場面。
たとえば、誰かが「こうしてね」と言ったとき、それに対して、
- そのやり方にムダがあるように思えて仕方がない
- もっといい方法が思いついてしまう
- そもそも「なぜそうするのか」の納得がないと動けない
こんな感覚を持ってしまう人は、「ただ従う」ことに違和感を覚えやすい傾向があります。
これは単なる性格ではない
この特性の背景には、「overexcitability(過度激動)」があります。これはポーランドの心理学者カジミエシュ・ダブロフスキが提唱した概念で、
- 感覚
- 知的
- 想像
- 情緒
- 身体
などの面で「ふつうの人よりも過敏で敏感で深く感じ取る」という特性のことです。
特に知的・情緒的なoverexcitabilityが強いと、「指示の意味を深く考えすぎてしまう」傾向があります。
ギフテッドが陥りやすい「指示への違和感」
ギフテッドは、先を読む力や全体構造を把握する力が高い場合があります。これはいわゆる先見の明とも言えるものです。
この力があると、相手の言う「やり方」が中途半端に思えてしまったり、
- 非効率な部分に強いストレスを感じたり
- 一部の前提が崩れると「全体が崩れる」と察知してしまったり
という思考ループに入ってしまいがちです。
合理的判断と内発的動機づけ
ギフテッドには、自分で理由を見つけて納得しないと行動できないという「内発的動機づけ」が強い人が多く見られます。
この傾向は「合理的判断」と深く結びついています。
つまり、「ただ命令されたからやる」ではなく、
- なぜその指示が出たのか
- 自分がそれをする意味があるのか
- やった先に何が得られるのか
などを自分で考えて、納得したときにはじめて動けるという感覚です。
反権威の気質も背景に
さらに、「ただの上下関係」や「立場の違い」では人を納得させられないという考え方も持ちやすく、反権威的な傾向も見られます。
これは「反抗心」ではなく、「理屈が通っていないことには従いたくない」という感覚です。
このときに起こる葛藤は、演繹的思考(一般から個別へ論理的に展開する力)と帰納的思考(経験から共通点を見つける力)のバランスにも関連しています。
たとえば、
- 「このケースではこの方法がベストだよね」と個別に判断し
- でも「それを指示した人はそれをわかっていない」と気づく
といったような、複雑な論理的納得のズレが生じてくるのです。
ツァイガルニク効果と「未完了の苦しみ」
さらに、ギフテッドは中途半端な状態が気になって仕方がないことがあります。これはツァイガルニク効果と呼ばれる心理現象です。
ツァイガルニク効果とは、「人は完了していないことほど強く記憶に残り、気になり続ける」というものです。
たとえば、
- 「とりあえずこれだけやっておいて」と言われたことが納得できず、頭の中でずっと引っかかる
- 指示を中途半端に受けると、自分なりに再構成したくなる
というように、「不完全なまま終われない」気質が、さらに指示に従うのを難しくします。
→ 続きでは「具体的な対処法」「親や上司への説明の仕方」「環境との折り合いのつけ方」について書いていきます。
どうしたら「指示に従えない」自分とうまく付き合えるのか?
ここからは、「指示に従えない自分」を責めずに、どう受け入れ、どう行動を工夫していけるかを具体的に解説していきます。
1. 「納得」の工程を飛ばさない
まず最も大切なのは、自分が納得するプロセスを無理に短縮しないことです。
ギフテッド特有の思考の深さや先見性は、何かをする「意味」や「背景」が見えないと、ただの「作業」として認識されてしまい、極端に動けなくなります。
そのため、
- 「なぜこれをやる必要があるのか?」
- 「この指示はどんなゴールを見据えているのか?」
といった問いを自分で明確にしてみると、行動への抵抗感が薄れます。もし状況が許すなら、その問いを相手に投げてしまってもかまいません。
2. 「自分でルールを作る」アプローチ
上からの指示に従うのが苦手でも、自分で決めたルールなら案外守れるという人は多いです。
これは、内発的動機づけと密接に関係しています。
たとえば、「朝9時に仕事を始めろ」と言われると苦しいけれど、自分で「9時までにコーヒーを入れて席につく」と決めたら自然に動ける、というようなケースです。
自分の中で、行動のルールや流れをカスタマイズすることで、「やらされている感」が大幅に減り、スムーズに行動できるようになります。
3.「最適解でなくても進める」柔軟さを意識する
ギフテッドは最適解を求めすぎるあまり、「これはベストじゃないからやらない」という思考に陥ることがあります。
しかし現実は「70点の案でも進めるほうが価値がある」場面も少なくありません。
「ここまで考えたうえで、この妥協は納得できる」
「今回はゴールの明確化が先だと自分で判断した」
などと、自分なりの“折り合い”をつけてみてください。
これはメタ認知(自分の考えや行動を一段上から客観視する能力)を活用することで、よりスムーズにできるようになります。
4. 指示の「目的」に注目する
多くの場合、指示は「方法」ではなく「目的」さえ達成できれば問題ないこともあります。
たとえば、「Aの書類を午後までに提出してね」という指示があったとします。
これはつまり「午後までにその内容を共有してほしい」という目的があるわけです。
その場合、方法が少し違っても、「自分のやり方で目的が達成できるならOK」と捉えることで、
- 「やらされている感」
- 「指示と自分の最適解の不一致」
といったストレスを減らすことができます。
5. 「反抗的に見える自分」への理解を育てる
反権威の気質を持つ人は、周囲から「頑固」「空気を読まない」と誤解されやすいです。
ですが、それは思考の深さや誠実さの裏返しであることが多いのです。
自分の気質を客観的に知り、場合によっては周囲に言葉で伝えることも有効です。
たとえば、
- 「すぐに動けないのは、自分なりに全体像をつかもうとしているからです」
- 「納得してからのほうが、断然パフォーマンスが上がるタイプです」
といった説明をあらかじめしておくと、無用な摩擦を減らすことができます。
親や上司にどう説明すればいい?
思春期や就職直後など、指示に従うことが求められる場面で、上記のような感覚を伝えるのは簡単ではありません。
そこでおすすめなのは、感情ではなく論理で伝えること。
「ただの反抗」ではなく、「こういう理由で今の指示が難しく感じられる」と明確に伝えましょう。
例:
- 「このやり方では、あとから別の修正が必要になる気がしています」
- 「別案も考えたのですが、先に一度共有してもいいですか?」
こうした言い方は、「反論」ではなく「改善提案」として受け取られやすくなります。
「やりたいこと」なら動けるのに…という感覚
内発的動機づけの強い人は、興味や納得がないと動けない一方、
- フロー状態(集中が極まって時間感覚を失うような状態)
- ゾーン状態(完全な没入と一体感)
に入りやすく、信じられない集中力を発揮することもあります。
このメリットを活かすには、
- 「納得できる状況をつくる工夫」
- 「やるべきことを、やりたい形に置き換える視点」
が重要になります。
たとえば、「資料を作る」指示に対しても、
- 「構造をきれいに整理してまとめてみよう」
- 「言語化の練習になるかも」といった視点で見直してみる
と、内発的動機づけを引き出すスイッチが入ることがあります。
まとめ:「反抗的」に見えることの本質
ギフテッドやその傾向のある人が「指示通りに動けない」と感じるとき、
- overexcitability(過度激動)
- 合理的判断・内発的動機づけ
- 最適解へのこだわり
- メタ認知と思考の深さ
- 反権威性・ツァイガルニク効果
といった、実に多層的な要素が関係しています。
これらはすべて「反抗心」ではなく、「深く理解したい・良いものを作りたい」という前向きな特性から来ていることがほとんどです。
もしあなたや、あなたの周りにそういう人がいるなら、その「やりづらさ」は「生きづらさ」ではなく、「資質の表れ」かもしれません。
ぜひ、その特性を否定せず、うまく活かす道を探してみてください。