「読むのは爆速なのに、書くのは遅い」
あるいはその逆で、
「書くことには集中できるのに、読むのが苦手すぎて時間がかかる」
そんな“極端さ”に心当たりのある人は、もしかしたらギフテッド(生まれつき認知的・感情的に高い特性を持つ人)かもしれません。
この記事では、そんな「読み書きのスピードの極端さ」に悩む方に向けて、原因・背景・そして日常生活や学習・仕事への対策まで、できるだけわかりやすく解説していきます。
1. 読み書きのスピードが「極端」ってどういうこと?
まず、「読み書きのスピードが極端」というのは、こんな特徴を指します:
- 1分で本の内容を把握できるのに、要約に30分かかる
- 書くときはスラスラ止まらないのに、読解問題は遅い
- 読めばすぐわかるのに、それを言語化・構造化するのが難しい
- 逆に、書く方が早すぎて読んでもらえないレベルになる
これらは決して「怠けている」「努力不足」という話ではありません。脳の特性によるものです。特にギフテッドには、こうした“認知機能の非対称性”がよく見られます。
2. ギフテッドにおける「非同期発達」とoverexcitability
ギフテッドの認知特性のひとつに、非同期発達(asynchronous development)というものがあります。
これは「知的な成長」と「身体的・感情的な発達」が一致していないという意味です。読み書きのスピード差も、まさにこの非同期性の一つのあらわれです。
overexcitability(過度激動性)とは?
また、ギフテッドの多くは「overexcitability(過度激動性)」という感覚・情動の敏感さを持っています。
読み書きに関しては、以下のように現れやすいです:
- 感覚過敏 → 書字行為が身体的にストレス
- 認知過敏 → 情報の洪水で読むことが疲れる
- 情動過敏 → 批判されるかも…という不安で手が止まる
つまり「読む/書く」という一見単純な行為にも、五感や感情、過去の記憶まで巻き込まれるのが、ギフテッドに多い構造なのです。
3. 「読むのが早い」ギフテッドが抱える落とし穴
読むのが極端に速い人は、往々にして「ざっくり理解」や「全体把握」は得意ですが、詳細な記憶や言語化が追いつかないという悩みを抱えがちです。
これは、演繹的思考(えんえきてきしこう)が優位なタイプに多く見られます。
演繹的思考とは?
演繹的思考とは、「一般原則→個別具体」へと推論していく思考法です。全体像を直感でつかみ、そのあと細部を整理しようとするタイプです。
このタイプは、「読む=概念構造を一瞬でつかむ」ことはできますが、「書く=構造を順序だてて言語化する」作業にストレスを感じやすい傾向があります。
その結果、「理解はできてるのに説明できない」「わかってるのにテストに書けない」というアンダーアチーバー(実力を発揮できない人)になってしまうこともあるのです。
4. 「書くのが速すぎる/遅すぎる」場合のメカニズム
一方、「書くスピード」が極端な人も、根本にあるのは同じ構造です。
書くのが速すぎるタイプ
- アイデアがあふれて止まらない
- 内発的動機づけ(=内なる欲求)で爆発的に書く
- 推敲せずに一気に出力してしまう
このタイプは、「オーバーアチーバー」(過剰に成果を出そうとする人)になりやすく、強迫観念や完璧主義にも陥りやすいです。
書くのが遅すぎるタイプ
- 書く内容に強い整合性を求める
- すべての語彙選びに悩む
- 文脈の正確さが気になって手が止まる
この場合、焦燥感(時間が足りない・遅れているという不安)や、外的強化(評価・報酬が動機の中心)によって、さらに出力がしづらくなる悪循環に陥ります。
5. 外的強化と内発的動機づけの罠
読み書きに限らず、私たちが「何かをする」ときには、その背後に動機があります。
大きく分けると、それは次の2つに分類できます:
- 内発的動機づけ:自分の好奇心・興味・価値観からくる「やりたい」という気持ち
- 外的強化:テストの点数や賞賛、報酬など「外から与えられる評価や罰」による行動
ギフテッドはもともと、内発的動機づけが非常に強い傾向があります。
そのため「知りたい」「伝えたい」という欲求から爆発的に書いたり、何時間でも読んでしまうことがあります。
しかし、もしその動機が外的強化にすり替わってしまうと、パフォーマンスは逆に落ちていくことが多いです。
外的評価がもたらす悪循環
たとえば:
- 「早く書けなきゃ怒られる」と思う → 焦って書けなくなる
- 「読めばすぐ理解できるのに点数が低い」と言われる → 自信を失う
- 「またちゃんと書けないかも」と思う → 強迫観念にとらわれる
こうした流れは、強い感受性や自己認知をもつギフテッドにとっては、非常にストレスフルで、自己否定のスパイラルを生みます。
特に「うまくできたときは褒められたのに、できなかったときだけ叱られる」ような環境では、内発的動機づけは失われ、読み書きそのものに嫌悪や抵抗感を覚えるようになることすらあります。
6. アンダーアチーバーとオーバーアチーバーの狭間で
ギフテッドの中には、「アンダーアチーバー」と「オーバーアチーバー」の両極を行き来している人もいます。
アンダーアチーバーとは?
本来の知的能力が高いにも関わらず、その力をうまく出せない人のこと。
読み書きの場面でよく見られる例は:
- 発表内容は面白いのに、文章にすると伝わらない
- 読むのは得意なのに、テストに反映されない
- 頭の中では全体像ができているのに、説明できない
オーバーアチーバーとは?
過剰に努力し、期待以上の成果を出そうと無理をしてしまう人。
こちらも読み書きのスピードに関わっており、たとえば:
- 読むのも書くのも速すぎて、周囲に理解されず孤立
- 常に高評価を求め、書く内容に妥協できず進まない
- 「遅いと怒られる」と思って無理やり早く書くが中身が薄くなる
このように、どちらも「読み書きのスピード」に関係していて、表面的には正反対に見えても、根底には同じようなプレッシャーや強迫観念があるのです。
7. 焦燥感と強迫観念がパフォーマンスを阻害する
「急がなきゃ」「早く終わらせないと」「完璧に書かないといけない」
こうした思考は、ギフテッドにとって最大の敵といっても過言ではありません。
これらの背景には、以下のような心理があると考えられます:
- 自分の能力に対する高すぎる期待
- 過去に「できて当たり前」とされた体験
- 「人より速く/正確にできないと意味がない」という思い込み
焦燥感とは?
常に「何かが遅れている」「時間が足りない」と感じる精神状態。
ギフテッドは、時間感覚が鋭すぎるため、他人より遅れていると感じるときに極度のストレスを受けやすいです。
強迫観念とは?
「〇〇しなければいけない」という思考が、脳内で自動的に繰り返される状態。
書き始めようとしても、「失敗するかも」「ダメな文章を書きたくない」という不安から、なかなか手が動かなくなるのが特徴です。
8. 対策1:スピードに「意味」を求めない
読み書きの速さに、「正解」や「理想的スピード」はありません。
まずは、自分がどちらの傾向(速い/遅い)にしても、それが自分のスタイルであることを認めることが大切です。
そして、「速い=優秀」「遅い=劣っている」という社会的な刷り込みから、自分を解放していくことが第一歩です。
スピードに対する「再定義」
読むのが遅い人は、「深く読む」力を持っている可能性があります。
書くのが遅い人は、「情報を慎重に構造化する」才能があるかもしれません。
読むのが速い人は、「全体像をつかむ力」が長けているとも言えます。
書くのが速い人は、「内発的なアウトプット衝動」が豊かな証拠かもしれません。
つまり、スピードそれ自体に善し悪しはないのです。
9. 対策2:自己認知のズレを減らす
ギフテッドの多くは、自分の能力に対して非常に高い期待や基準を持っています。
それゆえに、「本来ならもっと速くできるはず」「こんな程度ではダメ」と自分に厳しくなりすぎる傾向があります。
しかしこの“理想像”は、しばしば現実の自分と乖離しており、自己認知のズレを生み出します。
ズレが生む悪循環
- 理想通りにできない
- 自己否定が強くなる
- 焦燥感と強迫観念によりさらにできなくなる
この負のスパイラルを断ち切るには、「思ったより遅いな」「今回はうまく出せなかったな」といった現実の自分を、そのままの状態で観察する練習が必要です。
おすすめの習慣
- 書く・読むの時間を記録する(ストップウォッチ不要、体感でもOK)
- 終わったあとに「今のペースはどうだったか?」を点数ではなく“感想”で書き出す
- 1週間に一度だけ、以前の自分と比べてみる
このように、自己評価をやめて自己観察に切り替えることで、スピードの善悪から自由になることができます。
10. 対策3:自己評価を捨て、自己理解に切り替える
読み書きのスピードに悩む人が陥りやすいのは、「自分はできてない」「やっぱりダメだ」という強い自己評価です。
しかし、評価とは「何かと比べること」から生まれるものです。
それよりも大切なのは、「自分の特性や傾向を理解すること」。つまり、自己理解です。
自己理解がもたらす安心感
たとえば:
- 「私は書くのが遅いけど、それは言葉に強い整合性を求めているから」
- 「読むのが速すぎて疲れやすいけど、それは感覚情報の処理が多いから」
- 「急に集中して速くなるのは、内発的動機づけが働いているから」
このように、自分の読み書きスタイルを「正そう」とするのではなく、理解して受け止めることができるようになると、スピードに対する悩みは驚くほど軽くなります。
11. まとめ:あなたのスピードは、あなたの特性である
ギフテッドにとって、読み書きのスピードが「極端」なのは珍しいことではありません。
そしてそれは、overexcitability・非同期発達・演繹的思考・動機づけ・認知の偏りなど、多くの背景とつながっています。
以下のようなキーワードに思い当たる人は、読み書きの極端さを「問題」と見るのではなく、自分の特性として観察することから始めてみてください。
- overexcitability(感覚や思考の過敏さ)
- 内発的動機づけ(好きだからやる)
- 外的強化(褒められたい・怒られたくない)
- アンダーアチーバー/オーバーアチーバー
- 強迫観念・焦燥感・完璧主義
- 演繹的思考(全体から論理を導く)
スピードの速さや遅さは、「優秀さ」ではなく「構造の違い」です。
その構造を理解し、自分の使い方を知ること。それこそが、読み書きのスピードに悩まない未来への第一歩です。