「やることは山ほどあるのに、どれから手をつけていいかわからない」
「全部大事に見えるし、全部今すぐやりたくなるし、逆にどれもやりたくなくなる時すらある」
——そんなふうに、優先順位がつけられなくて悩む人がいます。
とくにギフテッド、あるいはギフテッドの傾向を持つ人にとって、この問題は非常に深刻です。
この記事では、
- なぜ優先順位をつけるのが苦手なのか?
- どうすれば少しでも楽になるのか?
- その根本にはどんな思考や特性があるのか?
これらについて専門用語もまじえてわかりやすく説明しながら、徹底的に解説していきます。
1. そもそも「優先順位」ってなに?
優先順位とは、「今やるべきこと」と「あとでやってもいいこと」を区別することです。
簡単そうに聞こえますが、ギフテッドの人にとってこれはとても難しい作業です。
なぜなら、どのタスクも「重要性」や「意味」に基づいて判断しようとしてしまうからです。
例えば、「Aをやらないと人に迷惑がかかる」「Bは今しかできない」「Cは未来の自分に必要」など、すべてに理由をつけてしまい、どれも大事に思えてしまうのです。
2. ギフテッド特有の背景にあるもの
■ overexcitability(感情や知覚の過敏性)
ギフテッドは一般的に過敏性(overexcitability)を持っていることがあります。これは、感覚や感情、知的好奇心、倫理観、想像力などが強く働くという特性です。
その結果、「どの行動も意味があるように感じてしまい、取捨選択ができなくなる」ということが起こります。
■ 新奇性追求性
目新しいこと、未知のものに惹かれる傾向があり、今までの優先順位がすぐに入れ替わるという現象が起こります。
その瞬間に一番興味があることが最優先になってしまうため、タスクリストはすぐに崩壊します。
■ ギバー傾向と自己犠牲
「人のためになりたい」「誰かを助けたい」と思う気持ちが強いギフテッドは、人から頼まれたことを自分のタスクより優先してしまいがちです。
それにより、自分のタスクを後回しにしすぎて、時間の余裕を失ってしまいます。
■ セルフスティグマと完璧主義
「できて当然」「やらなきゃ意味がない」という思い込みから、「中途半端にやるぐらいならやらないほうがマシ」と思ってしまうケースも。
このような考え方はセルフスティグマ(自分に対する偏見)に由来し、行動のハードルを不必要に高くします。
3. 優先順位がつけられないと何が起きる?
- やることをすべて「一軍」として扱ってしまい、時間が足りなくなる
- 締め切り直前まで動けず、プレッシャーに潰される
- パーキンソンの法則の罠にはまる
■ パーキンソンの法則とは
「仕事は、与えられた時間をすべて埋めるように膨張する」という法則です。
「1週間あれば1週間かかるし、1日なら1日で終わる」というあれです。
優先順位を決められずに時間だけをダラダラ確保してしまうと、この法則により、すべてが無限に時間を食うようになります。
4. どうすれば改善できる?
■ まず「優先順位とは“選別”である」と再定義する
すべてが大事に見えても、現実には時間もエネルギーも有限です。
だからこそ、優先順位をつけることは「どれが一番大事か」を決めるのではなく、「どれを一時的に棚上げするかを決める」ことなのです。
■ 価値観を整理する:使命感・義務感・責任感を切り分ける
やらなきゃいけない理由が「自分の中の使命」なのか、「誰かからの義務」なのか、「やらないと責められると感じている責任」なのかを、明確に分けて考えましょう。
混ざったままだと、すべてが“やるべきこと”に見えてしまいます。
■ メタ認知で自分を見下ろす
「自分がどう思っているか」「なぜ迷っているか」を冷静に見つめる力のことをメタ認知といいます。
この視点を持つと、感情や一時的な混乱に流されにくくなります。
■ ワーキングメモリの限界を意識する
人の脳は、同時に保持できる情報に限界があります。これがワーキングメモリの容量です。
頭の中であれもこれも考えすぎると、逆に処理能力が落ちます。書き出して整理する習慣がとても効果的です。
■ コンコルド効果に注意する
これまで時間や労力をかけたものを、損切りできずに手放せない心理をコンコルド効果と呼びます。
すでに「やる」と決めたことでも、今の自分にとって本当に必要かを、定期的に見直すことが大切です。
5. 公平性・平等性にこだわりすぎない
ギフテッドの中には、「みんな同じように扱いたい」「誰にも不公平があってはいけない」と強く感じる人がいます。
しかし、この平等性や公平性への強いこだわりが、自分の時間配分を歪めてしまうことがあります。
「この人だけに親切にしたら他の人に悪い」などと考えすぎて、すべての対応に均等に力を使おうとしてしまうのです。
でも現実は、限られたエネルギーでどこに力を注ぐかのバランスが必要です。
6. 全体最適と先見の明を活かす
ギフテッドが持つ全体把握能力や先見の明は、優先順位を考える上でも強力なツールです。
短期的な損得よりも、中長期的な価値に目を向けることで、本当に意味のある選択ができるようになります。
たとえば、「今はこのタスクをやるより、しっかり休んだほうが翌日もっと生産的になる」など、自分の将来を見据えた決断をする力が、優先順位の決定に役立ちます。
まとめ:優先順位とは「捨てる勇気」でもある
優先順位をつけるというのは、決して「正しい順番」を見つけることではありません。
むしろ、何かを手放す勇気であり、やらない勇気であり、選ばない勇気であり、今の自分を守る選択でもあります。
あなたがギフテッドで、すべてに深い意味を見出してしまう人なら、優先順位の判断はもっと難しくなるでしょう。
でもだからこそ、自分の特性を知って、環境や思考の整理法を工夫していくことで、少しずつでも「選べる自分」になれるはずです。
すべてを完璧にこなす必要はありません。あなた自身が疲れずに生きることこそが、何より優先されるべきことなのです。