自分なりの「こうあるべき」という強いこだわり。
それが良い方向に働くときもあれば、周囲とのズレを生み、人間関係で摩擦を起こす原因になることもあります。
この記事では、ギフテッド(またはギフテッドかもしれない人)に特有の「マイルールへのこだわり」について、その根底にある認知的・心理的要因を丁寧に分解しながら、実践的な対処法を提案していきます。
なぜマイルールにこだわってしまうのか?
1. overexcitability(過度激動)が土台にある
overexcitability(オーバーエキサイタビリティ)は、感覚・思考・情緒などが通常より強く反応しやすい傾向のことを指します。ギフテッドの人には、この傾向が強いことが多く、普通の人が気にしないような「矛盾」や「違和感」に過敏に反応してしまいます。
そのため、自分なりの整合性の一致(論理的・倫理的に筋が通っている状態)を強く求めるようになり、「それに反するものは受け入れたくない」という心理が働くのです。
2. 整合性の一致がないと不安になる
ギフテッドの多くは、「自分が正しいと思うこと」と「実際の言動やルール」が一致していない状態に非常にストレスを感じます。これは、整合性の一致(internal consistency)に強くこだわる性質からきています。
その結果、自分なりの「マイルール」を作ってでも、その整合性を守ろうとします。たとえば、
- 時間は1分でも遅れてはいけない
- 途中で手を抜くのは不誠実
- 人には必ず敬語を使うべき
こうしたルールは、最初は自己制御のための指針として生まれても、次第に「絶対視」されていき、他者にも適用しようとしてしまうのです。
3. 同一性の保持=「自分らしさ」を守る戦い
ギフテッドは、自分の思考・価値観・行動指針が「自分らしさ」と直結していると感じる傾向があります。このため、他者に合わせてルールを変えることに、強い違和感や不安を覚えます。
「それを変えたら、自分が自分じゃなくなる気がする」
このような感覚は、同一性の保持という心理的な欲求に根ざしています。
4. 使命感・責任感・義務感が強く働く
ギフテッドには、「自分がやらなきゃ誰がやる」というような使命感や、「正しいとわかっているのに黙っていられない」という責任感が強く見られます。
この感覚が暴走すると、「マイルールを守らない人=不誠実」「それを見逃す自分=怠慢」といった極端な思考に陥り、義務感から他人にまでそのルールを押し付けてしまうことがあります。
5. 先見の明と全体最適化の視点があるからこそ
ギフテッドは、ある種の未来予測力や構造把握能力に優れているため、「今このルールを破ると、将来こういう問題が起きる」といったリスクを無意識に先取りすることがあります。
結果として、「今だけを見て行動する人」と「全体を俯瞰して行動する自分」に大きな乖離が生まれ、イライラや孤立感を抱くことになるのです。
周囲の困惑ポイントとは?
マイルールを持つこと自体は、決して悪いことではありません。むしろ、それが自己制御や成長の原動力になることもあります。
しかし、以下のような点で周囲を困らせてしまうことがあります。
- 理由が伝わらず「頑固」に見える
- 一貫性を保とうとするあまり、臨機応変さを欠く
- 相手にも同じルールを無意識に求めてしまう
- 柔らかい言い方や妥協ができず、強迫的に見える
このような状況が続くと、ギフテッド本人としては「正しくあろうとしているだけ」でも、他人から見ると「融通が利かない」「空気が読めない」と受け取られ、人間関係がギクシャクすることがあります。
“マイルール”が強化されるメカニズム
1. 強迫観念のような感覚
こだわりが強くなると、「このルールを破ると自分が壊れる気がする」といった思考が強まり、強迫観念に近い状態になることがあります。
これは精神疾患の強迫性障害とは異なり、ギフテッドの脳の特性と非同期発達(知的・情緒的・社会的発達がアンバランスである状態)から来るものです。
2. ファクトフルネスが足りない視点になっていく
「自分の感覚」が正しいという実感が強すぎると、他者の視点や現実的な統計情報が軽視されてしまいます。
そこで大切なのが、ファクトフルネス(感情や思い込みではなく、データや事実に基づいて考える態度)です。
「本当にそのルールは、誰にとっても最適なのか?」
「その一貫性は、実際に役立っているのか?」
こういった問いかけが、マイルールの偏りを修正するヒントになります。
マイルールとうまく付き合うための工夫
1. 「これは絶対」ではなく「今の最適」と捉える
マイルールがきつくなるのは、それを「不変の真理」のように感じてしまうからです。けれど実際には、「その時点の最適解」に過ぎない場合がほとんどです。
メタ認知(自分の思考や感情を客観的に捉える力)を使って、こう自問してみてください。
- 「このルールは誰のためのもの?」
- 「このルールは今の状況でも妥当?」
- 「本当に守るべきは“内容”か、それとも“目的”か?」
たとえば「朝5時に起きる」というルールを掲げていても、それが「健康や集中力のため」であれば、必要に応じて柔軟に変えても問題ないはずです。
2. 自分と他者の整合性の違いを理解する
自分の中の整合性(筋の通ったルール)があっても、他人の中にもまた「別の整合性」があります。
それらが食い違うことは、必ずしも「誰かが間違っている」わけではありません。
「Aさんにとっての正しさ」と「自分にとっての正しさ」は別物だと認識することで、相手の行動を過度に責めることが減っていきます。
3. 「ルール」ではなく「価値」に立ち戻る
なぜ自分はそのマイルールを大切にしているのか?
本質的には、その背後にある価値観に根ざしていることがほとんどです。
たとえば「絶対に遅刻しない」というルールの裏には、「人を大切にしたい」という価値が隠れているかもしれません。
このように、行動ルールではなく価値に注目すると、より柔軟に対応できるようになります。
4. 非同期発達を自覚する
ギフテッドの中には、論理的思考は大人レベルでも、情緒的な柔軟性は年齢相応、あるいはそれ以下という人もいます。
こうしたアンバランスな発達を非同期発達と呼びますが、この自覚があるだけで、「今の自分は少し“こだわりモード”になっているかも」と気づけるようになります。
この気づきがあるかないかで、人間関係の摩擦は大きく変わってきます。
5. 「全体最適化」より「部分最適」でもOKな場面を見極める
ギフテッドの多くは、物事を「全体としてどうあるべきか(全体最適化)」で考える傾向があります。
しかし現実社会では、必ずしも全体最適だけではうまく回らないことがあります。
ときには「その場がうまく回る」「相手が安心できる」といった「部分最適」も、十分に意味を持つのです。
100点満点の解を求めるのではなく、「今ここで70点でも成立するならOK」と思える感覚を育てることも重要です。
マイルールが「力」になる瞬間
ここまで読むと、「マイルールって迷惑なものなのかも」と思われるかもしれません。でも、実はそれだけではありません。
ギフテッドの持つマイルールの中には、強い責任感や使命感、深い洞察力が根底にあります。
たとえば:
- 人の見落としを防ぐための安全ルール
- 非効率を減らすためのタスク設計
- 不誠実を許さない倫理的な態度
これらは、本質的には社会にとって価値のあるルールです。
ただ、その扱い方や伝え方によって「理解者を生むか」「孤立を深めるか」が大きく変わるのです。
力に変えるポイント
- 「このルールはどんな価値を守っているか?」を明確にする
- その価値を、誰にでもわかる言葉で説明できるようにする
- 相手にも「選択肢」として伝える(強制しない)
この3点を意識するだけでも、マイルールは「自分を守る鎧」から、「社会に貢献する設計思想」へと変化していきます。
自分を許す、他者も許す
マイルールにこだわりすぎてしまう背景には、「ちゃんとしたい」「失敗したくない」「不誠実でありたくない」という真面目さが隠れています。
その真面目さは、決して悪いものではありません。でも、その真面目さが自分や他人を苦しめてしまうなら、少しだけ緩めてみる価値があります。
完璧じゃなくていい。
100%守れなくてもいい。
ときどき、自分のルールを壊してもいい。
そうやって緩められることで、本当に守るべき価値が浮かび上がってきます。
まとめ
- ギフテッドは整合性・責任感・使命感が強く、マイルールを持ちやすい
- その背景には、overexcitabilityや非同期発達などの特性がある
- 周囲とのズレや誤解を生まないためには、メタ認知と柔軟性が必要
- ルールではなく価値に立ち返ることで、本質を見失わずにすむ
- マイルールは、扱い方次第で社会にとっての力にもなり得る
誰かと違っていてもいい。
こだわりがあるってことは、それだけ物事に真剣だということ。
ただ、そのこだわりが「自分を幸せにするもの」かどうか。
ときどき、それだけは見直してみてもいいかもしれません。