なぜか全然覚えられない…それ、本当に「努力不足」?
「授業内容が全然頭に入ってこない」「興味ない仕事が何度やっても覚えられない」。
一方で、「好きなゲームの仕様やキャラのセリフは一度で覚えられる」という不思議。
「自分って、やる気がないだけ?」
「集中力がないのかな?」
そう思って落ち込む人は少なくありません。けれど、もしあなたが“ギフテッド”かもしれないなら、それは努力や根性の問題ではなく、脳のしくみの違いかもしれません。
この記事では、「興味がないと全く覚えられない」という悩みの背景にある科学的な理由と、その対策を解説します。
結論:興味によって脳の働きが大きく変わる
ギフテッドやギフテッド傾向のある人は、「興味」や「知的好奇心」に脳が極端に反応しやすいという特性を持ちます。
これは**新奇性追求性(novelty seeking)やoverexcitability(過度激動性)**といった、特有の神経的な感受性と深く関係しています。
この感受性が高いと、**脳内の報酬系(ドーパミン系)**が「興味あること」には強く反応し、逆に興味がないことにはほとんど反応しなくなります。
つまり、「覚えられない」のではなく、脳が“覚えるモード”になっていないのです。
原因①:ドーパミンと「やる気スイッチ」
ドーパミンは、脳内でやる気や集中力、学習意欲を高める“報酬系”の神経伝達物質です。
ギフテッドに多く見られる特性として、
- ドーパミンの感受性が高い
- 刺激のないことにはドーパミンが出にくい
- 一度出るとハマり込んで没頭しやすい
といった傾向があります。
これは「好きなことなら止められないけど、つまらないことには極端に弱い」という状態につながります。
いわば、ドーパミンが「興味センサー」に紐づいている状態なのです。
原因②:overexcitabilityと「過敏すぎる知覚」
ギフテッドは「過度激動性(overexcitability)」を持つことが多いとされています。
これは、ダブロフスキーという心理学者が提唱した概念で、
- 知的(考えすぎる)
- 感情的(共感しすぎる)
- 感覚的(音や光に敏感)
- 想像的(空想が止まらない)
- 運動的(じっとしていられない)
という5つのタイプがあります。
このうち知的overexcitabilityを持つ人は、常に脳が「もっと面白いもの」「もっと深い問い」を探しています。
つまり、「つまらない情報」には脳が拒否反応を起こしてしまうのです。
原因③:スイッチングコストが高すぎる
スイッチングコストとは、「Aの作業からBの作業へと頭を切り替える時の負荷」のこと。
興味がない課題は脳が切り替えを拒むため、思考の移行にエネルギーが大量に消費されてしまいます。
たとえば、
- 興味のない授業のノートを取っても、頭に入ってこない
- 仕事の指示を受けても、次の瞬間に忘れてしまう
- 複数の課題を切り替えるたびに、疲れて集中が切れる
これは「怠けている」のではなく、脳の構造上のスイッチングの難しさと関係があります。
原因④:忘我状態と「集中の偏り」
「忘我(ぼうが)」とは、何かに没頭して他のことが意識から消える状態のことです。
ギフテッドに多いこの「忘我状態」は、強い集中とひきかえに、**他の情報の記憶を“削る”**という副作用を持ちます。
つまり、「好きなことに没頭している間、他のことがまったく頭に入らない」状態になりやすい。
これは記憶の不均衡を招き、「覚えられるもの」と「まったく覚えられないもの」の差をさらに広げてしまいます。
解決策①:メタ認知で「自分の脳の癖」を理解する
まず最初に取り組むべきは、自分自身の脳の仕組みや行動傾向を客観的に把握することです。これを**メタ認知(metacognition)**といいます。
メタ認知とは、「自分の考え方や記憶のしかたに気づく力」のこと。
たとえば、
- 自分は「視覚で覚えるタイプ」なのか、「音で覚えるタイプ」なのか
- 興味がない情報はどんな形式でなら頭に入りやすいのか
- どのタイミングで集中が切れるのか
を知っておくと、学習や仕事のスタイルを脳の特性に合わせてチューニングできるようになります。
これは「努力」ではなく、「仕組みづくり」によるアプローチです。
解決策②:「ドーパミンの出し方」をデザインする
ギフテッドは、ドーパミンの出やすさが特定の刺激に偏っています。そこで、「どうすれば興味を持てるようになるか」を構造的に考えましょう。
ドーパミンを引き出す方法:
- 意味づけ:なぜそれを学ぶのか、自分にとってどう役立つのかを事前に考える
- 報酬設計:小さな成功体験やご褒美を用意して、脳をやる気にさせる
- ゲーム化:勉強や仕事をクイズ形式にしたり、制限時間をつけて遊びの要素を入れる
- 関連づけ:自分の興味があるジャンルと結びつける(例:歴史 × ゲーム、数学 × 音楽)
こうした工夫によって、興味がないことにも「ドーパミンのフック」をつけることができます。
解決策③:スイッチングコストを減らす仕組み
興味のないことを覚えるには、「やる気を出す」よりも、「ハードルを下げる」ことが有効です。
スイッチングコストを減らすには:
- 一気に切り替えない:小さなタスクに分けて、5分だけやってみる
- ルーティン化する:決まった時間に決まったことをすることで脳に切り替えのリズムを覚えさせる
- 最初の1分だけ頑張る:人間の脳は「始めること」さえできれば、続けるのは意外と楽になる
これは、「面倒くさいことは後回し」というパターンからの脱却にとても有効です。
解決策④:「忘我状態」を逆手に取る
ギフテッドがよく陥る「忘我状態」は、集中が高すぎて他の情報が排除されるモードです。
これは一見すると「他のことが覚えられない」という欠点に見えますが、逆に言えば覚えたいことに対して使えば最強の記憶術になります。
忘我を記憶に活かすには:
- 一気に詰め込む:集中モードに入ったときに、覚えたい情報をまとめて叩き込む
- 一人時間を確保する:外界からの刺激を減らし、没頭しやすい環境をつくる
- 飽きる前に終わる:集中のピークをすぎる前にやめることで、次回への興味を維持する
忘我は「オンオフの切り替え」が難しいぶん、短期的な集中ブーストとして非常に役立ちます。
解決策⑤:「興味がないことを覚える」3つの現実戦略
どうしても覚えなきゃいけない。でも興味が湧かない。そんなときのための、現実的で即効性のある対処法も紹介します。
1. 語呂合わせ・ストーリー化
意味のない単語や数字も、ストーリーにすれば記憶に残ります。
例:「1192(イイクニ)つくろう鎌倉幕府」。
例:「3.141592653589793238462643383279(異国にむごさ後、焼くな組23は、城に虫、耳や身になく……)」
2. ノイズキャンセリング+BGM
覚えることに集中するには、雑音や気になる刺激を減らすことが非常に重要です。音楽を使って環境をコントロールしましょう。
3. 覚える目的を「自分の外」に置く
「この情報を○○に伝える必要がある」など、自分以外の誰かのために覚えると、意外とスイッチが入ります。
まとめ:覚えられないのではなく「覚え方が違う」
興味がないと覚えられない——これは「自分の能力が低い」のではなく、あなたの脳が“興味を起点に動く設計”をしているだけ。
そしてこの特性は、興味があるものに対してはとてつもない集中力と記憶力を発揮する「武器」でもあります。
必要なのは、「この武器をどう使うか」を知ること。
脳のクセに合わせた環境づくりと、仕組み化によって、“覚えられない悩み”はかなり軽くできます。