「もっとできる気がする」
「理想を実現したい」
「妥協したら意味がない」
——そんな思いから、次から次へと目標を立てては、自分を追い込んでしまう。
これは、ギフテッドやギフテッド傾向のある人がよく抱える悩みのひとつです。
今回は、その背景にある心理的・神経的な特徴や、なぜ止めたくても止められないのかという構造、そして、どうしたらそれと折り合いをつけられるのかを、深く解きほぐしていきます。
目標を高く、多く、際限なく立ててしまうギフテッドたち
まず確認しておきたいのは、「たくさんの目標を立てること」自体は、悪いことではありません。
しかし、それによって心身が疲れ切ってしまう、達成できない自分を責めてしまう、あるいは常に焦りや不全感があるという場合、それは解決すべき課題です。
とくにギフテッドの場合、次のような特徴が重なって、目標設定の傾向に強い影響を与えています:
- overexcitability(過度な感受性)
- 新奇性追求性
- 完璧主義
- 全体把握能力
- 先見の明
- 内発的動機づけ
- 論理的推論能力
これらはすべて、ポジティブに機能すれば大きな創造性を発揮しますが、ひとたびバランスを崩すと、無限のタスクと理想の沼に自分を沈めてしまうのです。
目標設定に影響するギフテッド特有の特性
overexcitability(過度な感受性)
感覚・情緒・想像・知的・運動の5つの領域で、刺激に対する反応が非常に強くなる傾向です。
このうち知的overexcitabilityがある人は、目の前の課題を掘り下げすぎて「これも必要」「あれも関係ある」と、目標や計画が膨れがちです。
新奇性追求性
新しいこと、未知のこと、挑戦的なテーマへの強い関心のこと。
安定より変化、慣れより発見を好むため、ひとつ達成してもすぐ次の目標を探してしまいます。
完璧主義
「完全でなければ意味がない」「妥協は悪」という信念。
特に理想主義や強迫観念と結びつくと、「同時に複数の理想を叶えなければ」というプレッシャーに繋がります。
全体把握能力と先見の明
一部のギフテッドは、「このまま進んだらどうなるか」や「もっといい方法があるのでは」といった大局的視点を持っています。
そのため、1つの目標に集中するよりも、「全体を改善するには何が必要か」と考えてしまい、結果的にタスクが雪だるま式に増えていくのです。
内発的動機づけ
報酬や評価ではなく、自分の内側から「やりたい」と感じて動くタイプの動機づけ。
このタイプは、興味があることには際限なく力を注ぎやすく、結果として目標が増えがちです。
論理的推論能力
一見バラバラな要素を組み合わせて、「本質」や「因果関係」にたどり着く力。
しかしこの力が強いと、「これはAに繋がるからBも必要で、BのためにはCとDも……」と無限に目標が広がってしまうことも。
なぜ「多すぎる目標」は苦しくなるのか
一見、目標がたくさんあることはポジティブに見えます。
しかし、ギフテッドの場合、次のような心理状態や社会的影響によって、目標設定が苦しさへと変わります。
1. 義務感・責任感の過剰
「自分がやらなきゃ」「誰も気づかないなら自分が言うべき」といった思考により、目標の数が他人の分まで増えていくことがあります。
2. ギバー気質と自己犠牲
ギバー(与える人)は、他者の期待や幸せのために自分を使おうとします。
このタイプが過剰になると、自己犠牲的になり、休むことへの罪悪感すら生じてしまいます。
3. セルフスティグマによる「自分への評価下げ」
セルフスティグマとは、自分自身に「弱さ」や「できなさ」をレッテル貼りしてしまうこと。
「ちゃんとやれてない」「あんなに目標立てたのに」という自責が常に付きまとうのです。
4. メタ認知による自動的な自己評価
メタ認知とは「自分の考え方を客観的に見つめる力」ですが、これが強い人は、常に「本当にこれでいいのか?」「足りてないのでは?」と自己レビューを繰り返し、さらに新しい目標を追加してしまいがちです。
目標設定が多すぎる状態をどうやって調整する?
1. 「同時並行」ではなく「一列で待たせる」
多くの目標を完全に捨てるのではなく、並列で進めるのをやめて、順番をつけて待たせる。
やりたいことリストはそのまま残してOK。「今やるのはこれだけ」と決めるだけで、心の負担は大きく減ります。
2. 優先度を「重要性」と「実現可能性」の2軸で判断
理想が高いと、重要性だけで判断しがちですが、「実現可能性」という軸を加えることで、現実的に着手しやすい順に並べられます。
3. 「完了形」ではなく「試行形」で考える
完璧主義の人は、「すべてやりきる」ことを前提にしてしまいます。
でも、いきなりゴールではなく、「まず試してみる」「方向性を探ってみる」という柔らかい形の目標設定にすることで、精神的なハードルが下がります。
4. 「意志」より「仕組み」で管理する
感情や気分に流されやすいときは、ToDoリストやカレンダーのような「外部の構造」に任せたほうが楽です。
また、習慣化アプリやポモドーロタイマーなど、行動をサポートするツールも有効です。
5. 「欲張りな自分」を否定しない
大切なのは、自分の資質を抑えることではなく、活かし方を知ること。
目標を持ちすぎる人は、ただ熱意があるだけ。否定するのではなく、並べ替えたり、寝かせたり、仲間に振ったりして「総量を調整」すればいいのです。
まとめ:理想を持てるあなたは、すでに「善き未来の種」を持っている
ギフテッドがたくさんの目標を持つのは、「世界をよくしたい」「自分を活かしたい」という健全な欲求のあらわれです。
だからこそ、無理に抑える必要はありません。
ただ、順番をつけること、現実の時間軸と折り合いをつけること、そして「未完でもOK」と認める心の余白を持つことが、あなたの可能性をつぶさずに生きるための鍵になります。
高く多く目標を持つあなたに必要なのは、「抑制」ではなく「整流」。
あふれるエネルギーをどう使うか。それを自分の手に取り戻すだけで、日々の感覚は驚くほど軽くなるはずです。