「そんな細かいことで怒らないでよ」
「そんなの気にしてたら生きていけないよ」
──そんなふうに言われたことはありませんか?
自分はただ、事実と違うことがまかり通っているのがどうしても許せなかっただけ。
でもまわりの人には「しつこい」「神経質」「空気読めない」なんて言われてしまう。
そんなギャップに苦しんでいる人は、もしかしたらギフテッド(特異な認知特性を持つ人)かもしれません。
この記事では、「他人の嘘が許せない」と感じるギフテッドの心の中にある葛藤や、なぜそれが起こるのか、どうすれば少し楽になれるのかを、わかりやすく丁寧に解説していきます。
1. なぜ「嘘」に過剰に反応してしまうのか?
overexcitability(過度激動性)という気質
ギフテッドに多く見られる特性のひとつが「overexcitability(オーバーエキサイタビリティ)」です。これは日本語では「過度激動性」や「過度興奮性」などと訳されるもので、感情や感覚、知的好奇心が非常に強く働く傾向を指します。
この特性を持つ人は、他の人がスルーできるような矛盾や不誠実さに、心の底から傷ついたり怒りを覚えたりすることがあります。
嘘やごまかし、矛盾に直面したときに感じる「なんか違う」「なんでそんなこと言うの?」という違和感。それは単なる神経質ではなく、感受性の高い人ならではの自然な反応でもあるのです。
整合性の一致にこだわってしまう
ギフテッドには「整合性の一致」を大事にする人が多いです。これは、「言っていること」と「やっていること」、「表面的な態度」と「本心」などがきちんと一致していないと、気になって仕方がないという感覚です。
たとえば、「あなたのためを思って言ってるんだよ」と言いながら、自分の都合で相手をコントロールしようとするような言動に、強い不快感を覚えることがあります。
この「整合性のズレ」を「嘘」と感じてしまい、無意識に「訂正しなければ」「見逃してはいけない」と義務感を抱えてしまうことも。
結びつけ記憶の鋭さが引き起こす違和感
ギフテッドの認知特性として、「結びつけ記憶(Association-based memory)」があります。これは、今目の前にある情報と、過去の体験・知識・論理・感情などを即座にリンクさせてしまう能力です。
だから、他の人が気にしないような小さな発言でも、「あのときと言ってることが違う」「この人、前にこういう場面でこう言ってた」と、無意識に矛盾点を検出してしまうのです。
その結果、たとえ相手が悪気なく言った言葉でも、「この人は嘘をついた」と感じてしまい、心がざわざわしてしまいます。
正義感や責任感が強い
もうひとつ、ギフテッドの多くが抱えるのが「強い正義感と責任感」です。
人を騙したり、誤魔化したりすることに対して「それは良くない」と感じる気持ちが、誰よりも強いのです。それは良心であると同時に、「自分が正さなきゃいけない」という強迫的な使命感になってしまうこともあります。
ときには、それが「人を攻撃しているように見えてしまう」ため、周囲との関係がギクシャクする原因になります。
合理的思考による「一貫性の破綻」への過敏さ
ギフテッドは一般的に「合理的思考」を好みます。つまり、物事の筋道が立っていて、矛盾がない状態が好きなのです。
しかし現実は、利害関係や感情が絡み合う世界。論理的に正しいことばかりがまかり通るわけではありません。
だからこそ、「なんでこんなに矛盾したことが平気で行われてるの?」と、世の中に対してイライラしたり、心が消耗したりすることがあるのです。
非同期発達による「感情と認知」のギャップ
ギフテッドの特徴としてよく語られるのが「非同期発達(asynchronous development)」です。これは、知的発達・社会性・感情面などの発達スピードにバラつきがある状態です。
頭では「嘘をつく人にも事情がある」と理解していても、感情のほうが追いつかず、「やっぱり無理!」と苦しむことがあります。
つまり、論理的には寛容でいられるのに、心のどこかで「整合性が取れてないこと」に拒否反応が出てしまう。この葛藤も、「他人の嘘が許せない」という苦しさの一因です。
全体最適化志向と反権威主義のジレンマ
ギフテッドには「全体最適化」を望む傾向があります。つまり、部分的なごまかしや利己的な行動ではなく、「全体として、より良い方向に進むこと」が重要だと考えているのです。
しかし一方で「反権威主義」の気質も強く、「偉い人が言ってるから正しい」といったロジックには反発心を抱きやすい傾向もあります。
この2つが組み合わさると、「嘘や欺瞞で人を騙して支配しようとする構造」そのものが、許せなくなるのです。
これは単に「感情的に怒ってる」のではなく、構造的な不整合や不公平を本能的に察知しているとも言えるのです。
2. 「嘘を許せない」自分をどう扱えばいいのか?
「正しさ」よりも「疲れない選択」を
まず最初に伝えたいのは、あなたが「嘘を許せない」と感じるのは悪いことではないということです。
むしろ、それは誠実さや倫理観の高さの裏返し。人間としての誇りや知性の現れでもあります。
しかし、それが「あなた自身を苦しめる武器」になっているのであれば、少し扱い方を変えていく必要があります。
正しさを追い続けると、たしかに一貫性は保てます。でも、それに縛られて疲弊し続けると、本来の目的(自分も周囲も幸せでいること)を見失ってしまうのです。
だから、合理的な判断力を持っているあなたにこそ、「長期的に自分が壊れないほうを選ぶ」という視点が必要になります。
「嘘つきに見える人」と「嘘をつくしかなかった人」を分けて考える
「他人の嘘が許せない」という感情の中には、相手の動機や背景を見落としてしまっているケースもあります。
嘘をつく人には、大きく2つのパターンがあります。
- 自分の利益や保身のために意図的に嘘をつく人
- 怖さや弱さ、不器用さから嘘をつくしかなかった人
ギフテッドは感覚が鋭いため、「この人、なんか隠してる」と感じ取る力はあります。でも、それが「悪意」なのか「不安」なのかは、じつは本人にもわかっていないことがあります。
「嘘をついた」という事実だけで判断するのではなく、「なぜその人がそうせざるを得なかったのか?」と視座を一段上げて見てみると、見える景色が変わってきます。
これは、あなたの結びつけ記憶や抽象思考の力を、より建設的に使うための視点でもあります。
「全体最適化」と「自分の限界」を同時に尊重する
嘘や不正に敏感な人は、「このまま放っておくと、他の人が被害を受けるかも」「自分が指摘しなきゃ」と思い詰めてしまうことがあります。
それは確かに正義感に基づいた行動です。でも、それによって自分が壊れてしまったら、本末転倒です。
「自分が疲れない範囲でできる最善をする」
「自分のリソースが限界のときは、見ないことを選んでもいい」
──そんなふうに、自分自身も「全体最適化」の一部であるという視点を持つことが、とても大切になります。
「合理的に見える人」ほど、じつは非合理な嘘をつく
ギフテッドの多くが持つ合理的思考は、物事の矛盾を見つけ出すのに非常に役立ちます。
しかし、世の中には「合理的に振る舞っているだけの人」もたくさんいます。
その人たちは、立場や損得を守るために、その場だけを合理的に見せかける嘘をつくことがあります。つまり、一貫性のある論理ではなく、その場の整合性だけを重視しているのです。
ギフテッドは、こうした「場当たり的な合理性」を見抜いてしまうがゆえに、人間関係で消耗しがちです。
そのとき大切なのは、自分はどうありたいか?という主軸を持つこと。「この人を変えるには、エネルギーが足りない」と割り切ることもまた、賢明な判断のひとつです。
「白か黒か」で切り捨てない心の余白を
ギフテッドの中には、完璧主義が強い人も多くいます。だからこそ、「嘘=絶対に悪い」と感じてしまいがちです。
しかし、世の中はグレーでできています。白と黒の間に、無数の理由や事情が存在します。
「自分の信念を守ること」と「他人を理解しようとすること」は、同時に成立します。
それができるのは、あなたのように抽象思考や全体把握能力を持つ人だからこそです。
「心の余白」とは、「相手の嘘を肯定する」という意味ではありません。
ただ、その嘘の背景には何があるかを知ることを拒まないという姿勢のことです。
「自分を裏切らない」ことが第一
最後に、もっとも大事なことをお伝えします。
それは、「自分が自分に嘘をつかないこと」。
どれだけ他人に嘘をつかれても、自分が誠実に生きているなら、それはあなたの中に「安心」を生みます。
そして、嘘が多いこの世界の中で、誰かひとりでも「本当のことを大事にしてる人」がいるだけで、救われる人がいます。
あなたが「嘘を許せない」と思うのは、誠実さの証です。
だからこそ、自分を守るために、感情の刃を内にも外にも向けすぎないこと。そのバランスを取っていくことで、あなた自身がもっと自由に生きられるようになります。
まとめ
- 「嘘が許せない」は、感受性・正義感・整合性へのこだわりからくる自然な反応
- ギフテッド特有の認知特性(overexcitability、結びつけ記憶、非同期発達など)が背景にある
- 合理性と共感、正しさと自己保全を両立する視点が必要
- 「どうすれば疲れずに誠実さを保てるか?」が鍵になる
「嘘を許せない自分」を、無理に変えようとする必要はありません。
でも、「どうすれば傷つかずにいられるか」は、工夫次第で変えられます。
あなたのそのままの特性が、もっと生きやすく、誰かの支えになる未来をつくれますように。