- はじめに:「なんで、また忘れたの?」と責められるあなたへ
- 結論:ギフテッドの忘れっぽさは、「能力の欠如」ではなく「脳の偏り」
- 原因1:Overexcitability(過度激動性)が集中と忘却を両立させる
- 原因2:スイッチングコストの高さで記憶が飛ぶ
- 原因3:メタ認知の深さが、逆に「うっかり」につながる
- 原因4:ギフテッドの記憶は「連続性」よりも「点」に偏りやすい
- 原因5:「記憶しておこう」という意識そのものがない
- 忘れっぽさの正体は、「過集中」と「切り替え困難」の同居
- 解決策1:まず「普通と同じ記憶のしかたは無理」と認める
- 解決策2:ワーキングメモリを補う「外部脳」の活用
- 解決策3:マルチタスクを諦めて「一点集中+記録型」に切り替える
- 解決策4:感情をフックにして記憶を強化する
- 解決策5:忘れやすい「定番シーン」を可視化して対策
- 解決策6:忘れっぽさを「責められるもの」から「戦略」に変える
- おわりに:忘れっぽいのは、異常ではなく「特性」
はじめに:「なんで、また忘れたの?」と責められるあなたへ
約束を忘れる。鍵を置いた場所が思い出せない。さっき思いついたアイデアがもう出てこない。
――しかもそれが、1日に何度も起きる。
「自分は記憶力が悪すぎるのでは?」
「もしかして病気?」
そう悩んで検索してここにたどり着いた方もいるかもしれません。
でも実はそれ、“ギフテッド”に特有の脳の働きによる可能性があります。
この記事では、まだ自覚のない人も含めたギフテッドにありがちな「忘れっぽさ」の原因を、脳の構造や心理特性からひも解きながら、解決策までを丁寧にお伝えします。
結論:ギフテッドの忘れっぽさは、「能力の欠如」ではなく「脳の偏り」
ギフテッド(Gifted)とは、特定の分野で平均よりも突出した能力を持つ人のことを指しますが、全体的な「万能タイプ」ではなく、非常にアンバランスな発達をしている人も多く存在します。
忘れっぽさの正体は、「注意資源の極端な集中」と「脳の切り替えのしづらさ」によって説明できます。
以下では、その原因をわかりやすく分解していきます。
原因1:Overexcitability(過度激動性)が集中と忘却を両立させる
ギフテッドによく見られる特徴のひとつに「Overexcitability(オーバーエキサイタビリティ)」があります。これは、感情・知覚・思考などあらゆる面での反応が強く、敏感で、深いという特性です。
このOverexcitabilityによって起こるのが、「一点集中による忘却」です。
たとえば…
- 読書や創作に没頭して、次の予定を完全に忘れる
- 思考が暴走して、周囲の音や人の言葉が一切耳に入らなくなる
- 話しかけられても、反応できないレベルで“自分の世界”に入る
この状態は「忘我(ぼうが)状態」とも呼ばれます。これは一種のフロー体験ですが、同時に日常的な出来事の記憶が抜け落ちる原因にもなります。
原因2:スイッチングコストの高さで記憶が飛ぶ
次に紹介するのが、「スイッチングコスト」という概念です。
スイッチングコストとは?
心理学や情報科学の分野で使われる言葉で、「ある作業から別の作業に切り替えるときにかかる負荷やロス」を指します。
ギフテッドはしばしば「ひとつの思考モードから抜け出しにくい」傾向があります。
これにより、
- ある作業に集中しているときに話しかけられると、聞いた内容が頭に入らない
- 「話しかけられたこと自体」を記憶に残せない
- マルチタスクが極端に苦手
というような、「人の話を聞いてない」「頼んだことをすぐ忘れる」という誤解を受けがちです。
原因3:メタ認知の深さが、逆に「うっかり」につながる
メタ認知とは、「自分の思考を客観的に把握する能力」のこと。
ギフテッドはこのメタ認知能力が非常に高い人が多く、考えながら自分を観察したり、俯瞰したりすることが自然にできます。
しかし、その分「現在の行動」が自動化されやすくなり、
- 財布をどこに置いたかを覚えていない
- コンビニで何を買いに来たかを忘れる
- いま自分が何をしようとしていたかが飛ぶ
といった“自動運転的な抜け”が頻繁に発生します。
考えすぎるがゆえに、「現実の行動が記憶されない」という逆説的な現象です。
原因4:ギフテッドの記憶は「連続性」よりも「点」に偏りやすい
多くの人は、日常の出来事を「文脈」や「流れ」として記憶しています。
しかしギフテッドの場合、強く印象に残った情報だけが「点」として記憶される傾向があります。
なぜ「点」になるのか?
- 感情が動いた瞬間にだけ強い記憶が残る
- 興味のない話題には注意が向かず、記憶が抜け落ちる
- 全体像を先に捉え、詳細を後から埋める思考傾向がある(演繹的思考)
このように、感情や意味づけが伴わない情報は、短期記憶からそのまま落ちてしまいやすいのです。
原因5:「記憶しておこう」という意識そのものがない
これも非常にギフテッドらしい特徴です。
一般的には、「この情報は大事だから覚えておこう」という判断とセットで、記憶が長期保存されます。
しかし、ギフテッドは
- 未来のパターンを無意識に予測し、
- 「必要ならまた思い出せる」と思い込んでしまう
ことがあります。
結果として、「今は覚えなくていい」という誤作動が起きやすく、脳がそもそも記憶保存をしていないことすらあるのです。
忘れっぽさの正体は、「過集中」と「切り替え困難」の同居
ここまでの内容をまとめると、
- 集中すると周囲が見えなくなる(忘我状態)
- 作業の切り替えに弱く、記憶が飛ぶ(スイッチングコスト)
- 俯瞰思考により、目の前の行動が記憶されない(メタ認知)
- 興味のある「点」にだけ記憶が偏る(感情記憶)
- 「覚える必要がある」という判断がズレている(メタ判断のバグ)
このような複数の要因が絡み合うことで、ギフテッドの「明らかに異常なほどの忘れっぽさ」は発生しています。
解決策1:まず「普通と同じ記憶のしかたは無理」と認める
ギフテッドの記憶は、そもそも「出来事の順番」や「パターン」としてではなく、「意味」や「関連性」で記憶されます。
なので、「人並みの記憶力を身につけよう」と努力してもあまり効果はありません。
まず必要なのは、
- 自分の脳の記憶方式を理解すること
- その特性に合わせて生活設計を変えること
です。
解決策2:ワーキングメモリを補う「外部脳」の活用
ワーキングメモリとは、「一時的に情報を保持して、処理する能力」のこと。
ギフテッドはこの容量が狭いわけではありませんが、深い処理を優先してしまうため、手前の情報がこぼれやすいのです。
この対策として有効なのが、外部記憶装置の活用です。
たとえば:
- ホワイトボードや付箋、メモアプリなどに「今やること」を見える化
- 会話の最中でも「ちょっとメモ取っていい?」と断って書き留める
- 「見た瞬間に行動できる」よう、タスクを場所とセットで貼る(例:玄関に「傘」)
解決策3:マルチタスクを諦めて「一点集中+記録型」に切り替える
ギフテッドはマルチタスクが壊滅的に苦手なケースが多いです。
- 聞きながら考える
- 話しながらメモする
- 同時に2人の会話を聞く
こういったことは基本的にうまくいきません。
なので、
- 集中すべきタスクは1つに絞り、終わってから次に進む
- 話しかけられたら「少し待って」と区切りをつける
- どうしても必要なら、「聞く係」と「メモする係」を分ける
というように、分離思考・直列処理に切り替えるのが効果的です。
解決策4:感情をフックにして記憶を強化する
ギフテッドは、意味のある情報や感情が動いた情報に対して、強い記憶保持力を発揮します。
この特性を活かすために有効なのが、「感情トリガー記憶法」です。
具体例
- 予定を覚えるときに「この予定がうまくいったらどう感じる?」とイメージする
- 覚えたいことに「理由」や「意義」をセットで結びつける
- タスクに「他人の喜び」などの感情的モチベーションを持たせる
たとえば、「ゴミ出し」という面倒な作業も、「明日ゴミが溜まって部屋が臭くなったら嫌だな」という感情を結びつけることで、記憶に定着しやすくなります。
解決策5:忘れやすい「定番シーン」を可視化して対策
ギフテッドは、パターンとしてのルーティン記憶が苦手なことがあります。
以下は、特に抜け落ちやすい“定番シーン”です。
忘れやすい場面
- 家を出る直前(鍵・財布・ゴミなど)
- 予定の前日(持ち物・準備)
- 複数の用事を同時進行しているとき
- 会話中に頼まれたこと(特に話題が多いとき)
これらは、「忘れる前提で仕組みを作っておく」のがベストです。
対策例
- ドア付近に「持ち物確認表」を貼る
- 予定ごとに「ToDoリスト」を分けて管理
- 頼まれごとは即スマホメモ(音声入力もおすすめ)
- 視覚優位ならアイコン付きで一覧化する
解決策6:忘れっぽさを「責められるもの」から「戦略」に変える
最も大切なのは、忘れること=ダメなことではないと認識することです。
ギフテッドの忘れっぽさは、
- 脳の資源を「深い理解」や「創造」に使っている証拠
- 常に多層的な情報処理をしている副作用
- 感情や意味を重視する優先順位の結果
です。
つまり、「覚えていない=怠けている」わけではまったくありません。
むしろ、忘れることが前提の戦略的な暮らし方を設計するほうが、現実的で幸福度も高くなります。
おわりに:忘れっぽいのは、異常ではなく「特性」
あなたが抱える「明らかに異常なほど忘れっぽい」という悩み。
それは病気でも、怠慢でも、能力不足でもありません。
それはむしろ、「あなたの脳が特別な設計になっている証拠」かもしれません。
記憶の仕方、集中の仕方、注意の切り替え方。それらはすべて、あなたの「思考の深さ」や「感情の鋭さ」の裏返しです。
だからこそ、「どうにか覚えよう」と頑張るのではなく、
「忘れても困らない設計」を日常に取り入れることが最適なアプローチです。